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英語教育受験英語コラム

なぜ私たちは英語ができないまま大人になったのか:受験英語のしくみと、ここから先の学び方

中学・高校の6年間、英語を勉強してきたはずなのに、話せない。 共通テストで8割取った人が、自己紹介の途中で固まる。 多くの日本人が経験するこの感覚は、本人の努力や才能の問題ではありません。 受験英語というシステムの作り方そのものに、原因があります。

この記事では、なぜ私たちが「英語を学んできたのに話せない」状態になったのか、 その構造と、ここから先の学び方をまとめます。

受験英語が測ってきたこと

共通テストの英語が測っているのは、文法知識の正確さ、読解速度、語彙の量、 選択肢を消去する技術、リスニングでの情報の聞き取り。 これらは英語力の一部ではあります。

ただ、ここに決定的に欠けているものがあります。

受験英語が測っていないこと

発話能力(スピーキング)。 やり取り(相手の発言に応答し、会話を展開する力)。 リアルタイムでの理解と即座の応答。 文化的文脈やニュアンスの読み取り。 自分の考えを英語で構成して表現する力。

ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)は、言語能力を記述する国際的な枠組みです。 その重要な特徴の一つが、interaction(やり取り)を、reception(受容)や production(産出)とは独立した活動として明確に定義していることです。

やり取りとは、聞いて話すの足し算ではありません。 相手の発言を理解しながら同時に自分の応答を準備し、会話の流れを読み、 適切なタイミングで発言する。これは独立した能力であり、独立した訓練を必要とします。 日本の大学入試英語には、この視点がほぼ完全に欠落しています。

「読めるけど話せない」という現象は、努力不足の結果ではありません。 テストがその能力を測っていないのだから、優先的に伸ばさないのは当然の帰結です。 テストが学習行動を規定する。これは言語テスト研究では washback effect(波及効果)として知られている現象です。

練習の量も足りていない

測定対象の偏りだけが問題ではありません。学習の量と質の両面で、根本的に不足しています。

米国国務省外国語研修所(FSI)の推計では、日本語話者が英語の実用的運用能力を 獲得するまでに約2,200時間。Cambridge Englishの推計では、CEFR B2レベル(中上級) まで500〜600時間、C1レベルまで700〜800時間とされます。

日本の中学・高校6年間の英語の総授業時間は、おおよそ780〜800時間。 数字だけ見ればCambridgeのB2推計と並びます。 ただ、実態はかなり違います。

この800時間の多くは、日本語で文法説明を聞く時間、日本語で書かれた問題集を解く時間、 日本語で解説を読む時間に使われています。英語に実質的に触れている時間 (meaningful exposure)は、800時間のうちのごく一部です。

さらに、受験対策の学習は本質的に「問題を解く」訓練です。 正解を選ぶ技術、時間内に処理する技術、出題パターンを見抜く技術。 これらは確かにスキルですが、自分の言葉で考えを組み立て、相手に伝える経験 とはまったく別のものです。

20年間、構造はほぼ変わっていない

この問題はまったく新しい指摘ではありません。

2002年、文部科学省が「英語が使える日本人」の育成戦略構想を発表。 2014年、英語4技能試験の入試導入が中央教育審議会で本格的に議論開始。 2019年、共通テストへの英語民間試験導入が決定、しかし同年11月に格差問題で見送り。 2021年、共通テストはリーディングとリスニングの2技能構成でスタート。 2025年から現在まで、4技能化の具体的な進展は見られません。

スピーキングを入試で測るべきだという議論は、20年以上の歴史があります。 一度は実装が決まりかけ、結局は元に戻った。 誰か一人が悪いというより、関係者それぞれに現状を維持する動機があるからです。

大学側はコストと公平性。高校側は進学実績への重み。受験産業は既存教材への投資。 政府は2019年の混乱への警戒。それぞれの合理的な行動の集積が、 全体としては誰も望まない状態を維持しています。集合行為問題として典型的な構図です。

生成AIが突きつけたこと

2022年末以降、生成AIは社会に急速に浸透しました。 翻訳、要約、文法チェック、語彙検索、文章の校正。 これらをAIはほぼ瞬時に、かなり高い精度でこなします。

ここで一つ気づくことがあります。 生成AIが代替できる英語能力と、受験英語が測ってきた英語能力は、驚くほど重なっています。 文法の正確さ、語彙の量、読解と要約、情報の検索。 これらはまさに、AIが人間を凌駕しつつある領域です。

では、AIに代替できない英語能力とは何か。 対面でのリアルタイムのやり取り、相手の反応を見ながら戦略を調整する力、 微妙なニュアンスの読み取り、異文化的文脈の理解、英語を通じた信頼関係の構築。 これらは、人間が身体を持って、その場にいて、相手と時間を共有することで初めて成立します。 受験英語が測っていない能力と、見事に一致します。

個人としてできること

制度を変えるには時間がかかります。 ただ、自分の学び方を変えることは、今日からできます。

受験英語で得た知識はゼロではありません。文法の土台、語彙の蓄積は使えます。 ただ、それだけでは足りないと自覚することです。 受験が終わった瞬間から、または社会人になっても、「使う」英語学習に切り替える。

やることは大きく3つ。 相手とやり取りする練習(誰でもよく、AIでも可)。 自分から英語を出す練習(独り言、ライティング、音読)。 日常的に英語に触れる時間を作る(多読、多聴、興味のあるテーマで)。

生成AIは強力な学習ツールになります。英会話の練習相手、英作文の添削、発音のフィードバック。 かつては高額なレッスンでしか得られなかった環境が、ほぼ無料で手に入る時代です。

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結びに

私たちが英語を話せないのは、性格の問題でも才能の問題でもありません。 20年以上、誰も望まない方向に最適化されたシステムの中で、最善を尽くした結果です。

その構造に気づいたら、次は自分の学び方を選び直すだけです。 AIにできることをこれ以上訓練するより、AIにできないことを訓練する。 やり取り、即興、関係構築。これが、ここから先の英語学習の方向です。

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